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2005年 05月 09日
Warren Zevon “Warren Zevon” (1976)
晩年は病魔に蝕まれ、決して幸せと言えないような亡くなり方をした彼。年を重ねていくごとにより苛烈な作風とアウトローな雰囲気を増していった彼の人生の締めくくりが、そういった不幸な死によってだったということは、何かあまりにも皮肉な気がするのと同時に、やはり彼は死ぬまではみ出し者として生き抜いたのだろうか、などと多少ロマンを馳せてみたくもなってしまいます…。

ファンには有名な話ですが、もともとは69年にアルバム・デビューしていた彼。それが泣かず飛ばずで、エヴァリー・ブラザーズのツアーバンドを勤めたりしながらもプラプラしていたらしいです。そんな状況を見かねて再デビューの機会を与えたのがあのジャクソン・ブラウンだったという訳です。この時期、ジャクソン自身最愛の妻を亡くしていて、失意のどん底にありながらも創作活動を行っていました。そんな経緯から彼の音楽性も初期におけるポップで爽やかなものから、より人間の本質に切り込んでいくような苛烈でシリアスなものへと移行しつつありました。(その成果は76年の名作『プリテンダー』で聴けます。)そんな折このウォーレン・ジヴォンというアウトローにジャクソンが目をつけ、ここに紹介するデビューアルバムのプロデュースまでかってでたというのは、なにか偶然とは思えません。

Warren Zevon “Warren Zevon” (1976)_c0075476_3331321.jpgカリフォルニアの太陽の下に生きる人間たちの、見逃されがちなダークサイドをえぐり、ハードボイルドに歌ってみせる彼。青少年の不埒な日々や痛々しいまでの感傷、強がり、弱さ、そういった青春を構成する決してハッピーではない側面が、彼の辛口な語り口によって暴かれていくんです。映画『オレンジ・カウンティ』で描かれたような、さんさんと太陽が降り注ぐけれどどこかやるせなげなカリフォルニアの風景。あるいはパンク歌手にしてビート作家、ジム・キャロル原作による名作『バスケット・ダイアリーズ』の世界。そんな映画に漂うような青春の希望と痛々しさといったものに思いを馳せながらこの人の歌を聴いていると本当に味わい深いものを感じられます。それこそ自分のこれまでの、あるいは今の、これからの生活とオーヴァーラップさせながら歌の世界に浸ってみると、もう本当にいいんですよね。

音楽的にも、無骨極まりないリズムと演奏がまた素晴らしいです。無骨ではあるのですが、かといって荒々しい訳ではなく絶妙に抑制の効いた渋味のある演奏です。あえて言えばやはりガーランド・ジェフリーズや初期JD・サウザーなどのストリート的感性を感じさせるようなロッカー達に近い感覚を湛えていると思います。そして、彼が70年に登場したもっとも重要なシンガー・ソングライターと言われるだけあって、曲がもう本当に良いんですよ。聴いてみてください。

この後80年代に若干の迷走などを重ねながらも、90年代にはさらにハードボイルドな歌を聴かせる歌手として色々なメジャー会社にホッポリ出されながらも、渋い、実に渋い活動を続けていたという彼でしたが、冒頭にも書いたと通り、不幸にもまだ若くしてこの世を去ってしまいます。
一生をアンチヒーロー的な世界観で生き抜いた孤高のロッカー。このビターな味わいが僕たちに示唆してくれるものの大きさは、音楽的なことを超えとても大きなものを秘めていると思います。

<しばさき>

by beatken | 2005-05-09 03:33 | review


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