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2005年 06月 07日
Hank Dogs “Bareback” (1998)
フェアポート・コンヴェンション、ニック・ドレイク、これら英国フォーク界における超重要アーティストは、共にジョー・ボイドというアメリカ人によってプロデュースされ、後見されたという点で共通点があります。そして共ににその後の英国フォークの歴史を塗り替えてしまった歴史的アーティストとして音楽ファンの間で永く記憶される人たちです。

Hank Dogs “Bareback” (1998)_c0075476_23552887.jpgそして今回紹介するハンク・ドッグスというグループこそ、その素晴らしい見識を持つプロデューサー、ジョー・ボイドがニック・ドレイク以来約30年ぶりに手がけた英国フォークの正統を受け継ぐグループということなのです。こうなると往年のファンも色めき立つというものですが、後追いファンの僕にとってさえこの事実はとても魅力的なことなのでした。
しかし、新人グループにとって、そもそもそういった伝説の亡霊を背負いながら活動するのは不幸なことかもしれません。自分達のオリジナルな部分を聴いてほしいのはもちろんのこと、そういった伝説的要因が絡んでくることによって不用意な期待や、思い入れを聴き手が抱いてしまいかねないから。
そういうこともあって、僕も初めてこのバンドを聴くとき、前述のような情報を切り離して聴かなければなどと気張っていたのでした。

しかし、実際に聞いてみてどうでしょう。あまりの予想を上回る素晴らしさに半ば驚きを覚えてしまいました。確かに正統的に英国フォークの歴史を受け継いだ音楽性であることには間違いないのですが、それよりもむしろ耳を奪われてしまったのはそのコンテンポラリーな感覚なのでした。シンガーのピアノ(変わった名前ですね)の声、アンディのギター、それぞれが70年代には無かった極めて現代的な響きを持っているように感じるのです。現在のバンドなのだからあたりまえだろうと言えばそれまでなのですが、それにもましてこういったある程度伝統や形式的美学が重視されるジャンルでここまでの現代的なみずみずしさを表現できるというのはとても凄いことである気がします。まるでアニー・ディフランコを思わせるような歌声、手垢の付いた表現ですが、極めてオルタナティブな音響を生音で紡ぎ出すギター、演奏。どこか伝統的な雰囲気をたたえながら無二の個性を演出するその新鮮さ。いいようの無い感動を覚えてしいました。

思えば、70年代のトラッドロックの時代から、こういった(その当時における)現代的解釈でのフォークロアの再考という傾向はあった訳で、そのことを考えれば、こんな風に新世紀において再びフォークロアをポピュラー音楽として回収しようという試みもある種正統なものであるといえるのかもしれません。しかしその試みの系譜は、日々絶え間ない変化をしていくロック・ミュージックの精神性によるものであったはずであり、このようにみずみずしい音楽を作り出しえたのも、このハンクドッグスが同時にロックのスピリットを正統に受け継ぐものたちであったからかもしれませんね。そんなことを考え、フェアポート・コンヴェンションからニック・ドレイクへと続く英国フォークの系譜に思いを馳せてみた時、凄くロマンティックな気分になったりするのでした。

僕にとってハンク・ドッグスの音楽は確かに唯一のものである一方、先述のような伝承のロマンをも強烈に感じさせるものでもあります。
新しくて古い、しかし確実に新しい、そんな素敵な音楽です。

「温故知新」の言葉の意味を考えさせられました。

<しばさき>

by beatken | 2005-06-07 23:56 | review


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